フレット交換作業を詳しくご紹介

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さて今日のブログは、

久しぶりにフレット交換のお話です。

というのも先日とあるお客様より、

施工業者によるフレット交換の料金差について、

素朴なご質問を承る機会がありました。

 

 

当工房の基本料金は、

例えば「フレット以外に大きな問題の無いローズ指板のストラトキャスター」

なんかでしたら、

約32,000円(2016年8月現在)です。

もちろんフレット代込み。

これを基本に、

その楽器の状態やスペック、塗装の有無等で金額が加算されます。

 

ところがインターネットで安いところを探すと、

1万円ポッキリ!なんてところもあります。

いったいどんな作業をされるのか分かりませんが、

それは当工房ではまず実現不可能な価格設定です。

 

ただそのような格安業者さんの仕事を拝見したことが無いので、

憶測でものを申し上げるべきではありません。

 

そこで今日は

当工房の比較的スタンダードなフレット交換作業を

順を追ってご紹介いたします。

どういった作業なのか、

是非じっくりとご覧ください。

 

フレット交換前

今回のお相手はこのギター。

フレット自体の摩耗に加え、全体にフレットの浮きが散見されます。

エボニー指板はフレットが浮きやすいですね。

 

まずはフレットを抜きます。

フレット抜き作業

全体的に何だか指板が濡れていますが、

今回はかなり乾燥した指板が相手でしたので、

事前にレモンオイルを塗布し、湿らせています。

フレット抜き時の指板割れ防止です。

 

ハンダごてでフレットを熱しながら(これも割れ防止等)、

喰い切りという刃物をフレットと指板の間に滑り込ませ、

フレットを浮かせて行きます。

実際には、左手ハンダごて、右手喰い切り、でやってます。

 

「抜く」といっても、引っ張っては行けません。

フレットの足には指板に食い込んでいるくさびが付いていますので、

無理に引っ張ると指板がひどく割れます。

指板を割れないように押さえながらフレットだけを浮かせる、という作業です。

 

それでもローズやエボニー指板は、

なかなか割れゼロというわけには参りません。

指板調整

割れた箇所、破片が残っていればそれを接着、

上の写真の様に破片が無ければ、エボニー粉末を樹脂で固めて補填します。

 

さらには指板全体を研削し、

指板やネックの歪みを修正。

出来るだけ理想的な形に近づけます。

とてもとても重要な作業です。

フレット溝の調整

その指板調整作業と並行し、

フレット溝の調整も行います。

 

溝の深さを測定、異物当があれば取り除きます。

新しいフレットに対して深さが足りないこともありますので、

その場合は切り足します。

 

今回はセルバインディング付き指板ですので、

この作業は中々の手間。

珍しい道具も登場してます。

 

本来はこの後、

指板全体の傷を細かく整えて行くのですが、

今回はご依頼主のご要望で、

あえて荒い傷を方向だけ整え、そのまま残しています。

ポジションマークの手触り的な理由です。

 

ここまでの作業、

1時間で終わるものもあれば、

丸1日かかるものもあります。

 

続いて新しいフレットの準備を。

オーバーバインディング加工

フレットを指板のRに対して最適な形状に曲げ、

各フレットに合わせ長さを切ります。

 

セルバインディング部分は足が邪魔ですから、

バインディング部分のみ切り取り、ヤスリで揃えます。

オーバーバインディング加工と言います。

22Fギターですから、44箇所。

全て手作業です。

 

続いてフレットの打ち込み。

フレット打ち

フレットを打ち込む方法はいろいろあります。

玄能(トンカチ)で叩き込む、

当て板を使って叩き込む、

プレス機で圧入する等。

そのモデルや構造に合わせ最適な方法を選択します。

 

今回は玄能による手打ちで作業しました。

 

ご覧のとおり、室内はちょっと暗めにしてます。

作業をしながらスポットライトを当てて、

フレットと指板の隙間を確認しながらの作業。

 

全ポジションでしっかりと指板とフレットが密着するのが理想です。

駆け出しの技術者が最も苦戦する作業かもしれません。

 

全体を装着したら、

再度全体の打ち込みムラ等をチェックし修正。

 

場合によっては、

フレットのエッジに若干の接着剤を補填します。

 

続いては演奏面に大きくかかわる、

フレットエッジの処理に入ります。

フレットエッジの研削

指板より飛び出ているフレットを、

まずは鉄工ヤスリで揃えます。

 

ビビッて削らな過ぎると演奏に支障をきたしますが、

削り過ぎももちろんダメ。

指板幅に揃えるだけでは無く、

その角度も最適に調整します。

 

写真右上が鉄工ヤスリ後。

このままでは傷が荒いので、

細かく研磨したのが右下です。

 

一見綺麗ですが、

エッジは角ばっていて、バリも残っていますので、

1本1本丸めていきます。

フレットエッジの面取り

ここは手掛ける職人さんによって

大分形状が異なる部分ですが、

私は特にご指定が無ければ、この写真のような形状に加工します。

フレットサイドの面はしっかりと残しながら、

角は出来るだけ均一に面取りします。

 

指板に極力傷を入れないよう留意しながら、

1か所1か所丁寧に丸めていきます。

1本のギターで4角ありますので、

全部で88箇所。

雑念禁止の作業です。

 

この部分を無理に丸く仕上げているものも見ますが、

なんでもかんでもあれに仕上げるのはあまり賛成できません。

 

必要最小限に美しく面取りする。

これが私のフレットエッジのモットーです。

あとは傷を整えますが、

それはもう少し後で。

 

そしたらフレット頂点の仕上げに移ります。

(メイプル指板の場合、ここで塗装)

フレットすり合わせ

フレットを打っただけの状態は、

まだフレット頂点の高さにわずかなバラつきが残ります。

 

これは私の技術の未熟さも一因なのですが、

フレット自体にもバラつきがありますので、

どれだけ技術が向上しても100%には行かないと思います。

 

そこでほとんどの場合すり合わせ作業を行い、

そのわずかなバラつきを修正します。

 

フレット頂点の高さを揃え、

フレット全体の形状を整え、

傷を細かくし、

最後はコンパウンドで1本1本磨き上げます。

 

バッフィングマシンを使っても良いのですが、

この時点でネックに摩擦熱を加えるのがちょっと嫌で、

私は手で仕上げるようにしています。

フレット交換完了

その後フレットのエッジも綺麗に磨き上げたら、

フレットの交換作業は全て完了。

大きく深呼吸したくなる瞬間ですね。

 

いやいや、まだまだ大事な作業が残ってます。

ナット交換とセットアップ

フレット交換後は、

ナットの弦溝高が不足することが多いので、

併せてナット交換を実施。

 

弦を張り、全体をセットアップしたら全ての作業が完了です。

 

フレット、ナットがあたらしくなると、

全体のピッチが整って、

本当に気持ちの良いギターになります。

 

 

 

 

 

 

もしかしたら

「ただフレットを交換する」だけなら、

1万円という価格も実現可能なのかもしれません。

 

ただ当工房のフレット交換作業は、

「フレット交換作業を通じて、そのギターやネックに生じた問題点も出来るだけ改善する」

という作業が基本です。

つまり私のフレット交換は、

「演奏性も見た目も新品以上」を目標としています。

 

そのためには上記の様に、

非常に多くの工程を要します。

その全ては手作業であり、どれ1つとして簡単なものはありません。

 

他の作業と比較しても、

時間工賃、技術料、どうしても加算させていただく必要がございます。

 

じゃあ工賃を下げるために、

見た目はそんなにきれいじゃなくて良い、

とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、

それでは私が嫌なのです。

 

 

 

ですからお客様の目的に合わせ、

お預けになる先をお選びいただければと思います。

 

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ABOUT YOS

静岡県島田市のギター工房です。
カスタムオーダーギター・ベースの製作、リペアとカスタマイズ、オリジナルエフェクターなどの設計・製作をしています。

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