ギタークラフトマンならではのリペア作業

今日ははるばる長野より、

有名ギターメーカー勤務の職人が、

工房を訪れてくれました。

私が専門学校で「先生」と呼ばれていたときの教え子です。


やはりお互いギター製造を仕事にする人間ですので、

相当久しぶりであるにもかかわらず、

挨拶もそこそこにずーっとギターの話。


つかの間の懐かしい感覚を味わうことが出来て

私もリフレッシュさせていただきました。



彼、学生時代はそれはもうすさまじい勢いのクラフトっぷりで

周りからは「生き急いでる」と呼ばれてましたが、

まだ生きていてよかったです。


あ、静岡の皆様ご安心ください。

ちゃんと「さわやか」は食べさせましたので。




さぁ、今日はかなり特殊な修理をご紹介。

皆様もリペアマンになった気分で

ご覧ください。

Kramerのカスタムモデル

80年代に一世を風靡したKramer。

これはそのカスタムオーダーモデルだそうです。

作られたのは30年ほど前でしょうか。


素材やそれぞれの仕上げは美しく、

当時の職人さんの技術の高さが伺えます。


ところが非常に残念なことに、

ネックの位置(ブリッジの位置)におおきな問題があり、

各フレットのピッチが大きくずれてしまっています。


どれだけブリッジサドルをネック側に出しても、

いわゆる12フレットのオクターブが取れません。


これはもう純粋に作った人間の人災。


まだ楽器の構造を熟知した職人が少なかった時代ですから、

実はこういった楽器は少なくありません。



さぁこれをちゃんと「楽器」にするのが

私の仕事です。


この症状を改善するには主に2つの方法があります。

1つは、ブリッジの取付位置を変える方法。

もう1つはネックの取付位置を変える方法です。


当然ですが

こういった、構造部分に手を加える修理は、

様々なリスクがあります。

失敗しましたでは許されません。


まずお預かりしたギターは、

各部を正確に測定し、

どのような対応方法が良いか、

様々なパターンを検討しました。


その結果、

ネックポケットを5mm程延長し、

対応することにしました。


たかが5mmなんですけど、

それが弦楽器にとっては致命的なんですね。

このギター、元のネックポケットにはいわゆる「シム」と呼ばれる

スペーサーが入っていて、

ネックの角度が調整されていました。


せっかくネックポケットを延長する作業を行うので、

さらにポケットに角度を付けて掘り、

シムを入れなくてもネックが適切な角度にする方法を選択。


その為に左のような斜めな治具を作成しました。

当然この作業は、この治具の精度が全てです。



切削作業はトリマールーター等を使用しますが、

この時一番怖いのが「塗料のチップ」です。

そういったことを複数意識しながら、

掘り方を工夫して切削します。



そうこうしながら掘り終えたのが画像右側。

緑色の塗料が残っている部分は元のまま。

木が見えているところが新たに掘られた部分です。

長さの延長だけでなく、底面に角度が付いているのが見えますでしょうか?


その後ネックを差して成果の確認。

もちろん大成功です。



今回はピックアップも全て交換し、

コントロール系のアッセンブリも一新することに。


ネックポケットの寸法も変わりましたので、

それら全てに合わせてピックガードを新調しました。

配線は、いつもの私にしては比較的シンプル。


それぞれの取り回しの美しさと

1点1点のハンダ付けの精度にとにかく留意して進めます。


さぁ、一気に組み上げますよ。

積年の汚れが目立った指板は

フレット共に美しく磨き上げ、

各パーツを組んでいきます。

さすが80年代。

詰まって黒々した良いエボニーです。


修理ではありますが、

ほぼ新しいギターを組み上げている感覚。


これまで1度も合わせられなかったであろう

12Fのオクターブ調整もばっちりです。



パっと見それほど変わっていないように見えるこのギターリペアですが、

左下画像をご覧ください。

ボディに対して、弦が斜めに張られているのが見えますでしょうか?


こうして無事、全ての修理メニューが完了しました。


こういった内容の作業は、

弦楽器の構造的部分に精通している必要があり、

楽器の設計から行う当工房にとっては、

まさに腕の見せ所となりました。



生まれ変わったピッチに、

ご依頼主もきっと満足してくださるはず。

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ABOUT YOS

静岡県島田市のギター工房です。
カスタムオーダーギター・ベースの製作、リペアとカスタマイズ、オリジナルエフェクターなどの設計・製作をしています。

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